郊外にある小鳥の囀りから虫達の囁きまで聞こえてくるとても静かな森の中に木造立てで外壁にはどこから生えてきたのか解らない蔓が巻きついて居て、誰も人が住んでいなかったような雰囲気を醸しだしている家が一件だけ建っている。しかし周辺の草木には手入れが行き渡っており、今現在は誰かが住んでいるという核心は持てるだろう。

手入れが行き届いていない家の裏ではガサガサと音を立てて一人の少女が汗を垂らしながら鎌を片手にボーボーに生えた雑草を刈り取っている。
その姿を家の中から眺める男は窓を開けて少女に話しかけた。


「ニナ、それは俺がやるって言っただろう。」

「でもどうせ暇だから……、それに今手が離せないでしょ?」


ニナと呼ばれた少女はにっこりと笑うと男は口の端を上げながら息をフーを吐いた。
男の片手には携帯電話があり、なにやら大事な話をしているようだった。
ニナは腕で額の汗を拭うと雲一つ無い青い青い広大な空を見上げた。









「……ねぇ……マシロちゃん……。」

「……ん……なんじゃ……?」


その飛びぬけた科学力と深い歴史に伝統ある国"ヴィントブルーム王国"先の大戦で色々と問題が山積みになりながらも平和を取り戻し、国民達は平和な暮らしをしているが……。
街中にあるとても大きなお城の中にある広大な部屋の窓際にポツンと起これた一つのデスクの上には山のように積まれた書類がヴィントブルーム王国の女王マシロを日々襲っている。
書類と必死に戦っているマシロの横にはマシロの側近のオトメ、アリカがピシッと……立っているわけではない、窓に寄りかかり空をジーっと見ている。

すると黄色い小鳥が足に何かを結び付けて飛んできて外側から窓を突く。
アリカはすぐに窓を開け小鳥の足に結んである小さな筒を取り外すと小鳥は空高く舞い上がっていった。

アリカは筒の中に入っていた一枚の紙を取り出すと、すぐさまマシロに近づきその大きな部屋で誰も居ないこともわかっているのだが、マシロの耳元で小さく呟いた。


「アスワドの周辺でアルタイのテロが起こってるって……。」

「なんじゃ……またか……アルタイのテロならしょうがない、あの者に……。」

「うん……しょうがないよね、それがニナちゃんの意思だから。」


アリカは再度窓際に行き窓を3回軽くノックすると白い鳩が上から降りて来た。


「お願いね。」


鳩の足に先ほどの紙を入れた筒を結びつけ飛び去っていった。
それをアリカはずっと眺めていた。

マシロはそんなアリカを背に一枚の書類に目を通すとアリカを呼んだ。


「アリカ、またきとるぞ。」

「ナオ先輩ね、私は五柱にはならないよ。」


ずっと背を向けたまま答えるアリカに、マシロは渋った顔でその書類に大きく×を書いた。









「なぁ、ニナ。そろそろここを出ようと思うんだ。」

「!? どうして!? お金はちゃんと稼いで生計も立っているし、それに……。」


勢い良く立ち上がると椅子を後ろに倒れ大きな音が家中に響き渡った、テーブルの上を両手でたたきもの凄い剣幕で男に訴えかける。
男は複雑な表情をしながら一枚の写真をテーブルの上に晒した。

写真に映っている女性はニナにとってとても衝撃的な人だった。


「何故……なんでこの人の写真を……なんでセルゲイが持ってるの!?」

「ある情報屋が記憶の消える前の俺から預かっていた物らしい……もし何かあったらアリカとか言う少女に渡してくれと言われたらしいが、そのアリカという少女が俺が今ここに居ることとそして写真は返すということで今俺のところに渡ったわけだ。」


ニナは下唇を噛締め、めり込んだ歯が下唇の皮膚を貫通し血がテーブルの上に滴る。手、足、顔、体全体が震え、テーブルに振動が伝わり写真がテーブルの上からひらひらと舞い落ちる。


「で、でも! それでもここを出て行くこととは関係ないわ!」

「この女性……見たことがあるんだ……。」

「!?」


セルゲイは頭を抱え、言葉では上手く表現できない頭のもやをニナに伝えようとなんとか言葉を捜す。


「ずっと前……ずっと前なんだ……大事な人だったような……忘れちゃいけないようなことだったはずだ。だから俺はアスワドへ行く。」

「!?……アスワド!?」

「そうだ、その情報屋から教えて貰った。この女性はもう死んでいるそうだ……。アスワドの指導者等が生前の彼女のこと知っているらしい……知りたいんだよ。」

「わ、私は……私のことはどうするの……。」


黙ったまま何も答えないセルゲイを見ていると堪らなくなり顔を伏せ、泣いている自分の無様な表情を隠した。

暫く顔を背き合い、静かな時が経つ。この時間に考え直してくれるかもしれない。もしかしたら……お互いそう思ううちに長い長い時間が経った。
外の鳥の羽ばたく音や木の葉の擦れ合う音が聞こえてくる。一枚の葉が窓から進入してくるとニナの足元にゆっくり落ちた。

ニナは立ったままジッとその葉を見つめていた。
風がその葉を再び空中へ舞いさせる、その葉を目で追ってピントが葉からセルゲイの表情へ映る。
ポケットからロケットペンダントを取り出すと中に入っている写真を一枚めくり、奥に入っているセルゲイと自分の写真をセルゲイに渡した。


「!?……これは……?」

「私と貴方の写真……。」


今まで何も言われずに記憶を失った自分に付きっきりで看病をして、生活まで面倒を見てくれていた人……てっきり恋人か何かじゃなかったのかと思っていた。
しかしこの写真……俺が小さいニナの肩に手を乗せて自分の娘のようだ……。


「私達、義理の親子だったのよ。」

「……。」

「出てって……今すぐ出てって……。」

「ニナ……。」


隠し切れない涙がテーブルの上に溢れ返っている。


「例え父親でもあなたのこと愛しているわ……一度で良いから抱いて欲しかった……。」

「ニナ……。」


セルゲイは立ち上がりニナを後ろから抱きしめようとした。
ニナは近づいてきたセルゲイを突き飛ばし、倒れている椅子を投げつけた。


「私は!私自身を!娘としてでも、同情としてでもなく!私が!」

「ニナ……。」

「もう2度私の名前を呼ばないで!」


セルゲイはテーブルから落ちた写真を一枚とニナが差し出した自分とニナの写真を手に黙って扉を開けて出て行った。
ニナは扉が閉まった瞬間、慌てて扉を開けてセルゲイの背中へ向かって叫んだ。


「2度と会わない! だけど……だけど私のこと忘れないで!セルゲイ!」


セルゲイは振り向かず静かに森の中へ消えていった。

するとセルゲイの消えていった森の中から広い縁のある帽子を深く被っていて、帽子と同じ黒い色をしたマントを身に纏った人がニナの方へ向かってくる。
ニナは涙を袖で拭うと扉に入りドアを閉めた。


-コンコン-

「入りますよ。」

-ガチャ-


了解も得ずに勝手に進入してきた客はテーブルの上で顔を伏せているニナの向かい側へ座った。
帽子を外すを水色の髪に赤色の目をした、無表情な顔がニナの頭を見つめている。


「仕事です、アスワドでアルタイの残党がテロ起こしています。」

「……アリカから聞いたわ……。」


うつ伏せのまま答えるニナ。そんなニナの様子に顔色一つ変えずずっと見つめたまま飄々とミユは口を動かす。


「つらければ……代わりに私が行きますが。」

「……それを言いにきたの?」

「アリカから写真のことを聞きました。 そして先ほどセルゲイ・ウォンを見ました。」

「……大丈夫よ、自分の償いは自分でする……エルス……。」


ニナの言葉を受けるとミユは立ち上がり何も言わずに出て行った。
ミユが外に出た瞬間、何かが割れる音や壊れる音が森中に響き渡り、周辺の小鳥達が飛び去っていくも、ミユは表情を変えずにただ去って行った。









「ここがアスワドか……。」


一面の砂漠に背の高い岩石等が取り囲んでいる自然の要塞の中から人の賑わう声が聞こえてくる。どこが入り口だかわからないセルゲイは適当に周辺を歩き始めると上方から怒鳴る声が自分へ当てられる。


「そこの奴止まれ! ここから先はアスワドの地。命が欲しくば引き下がれ。」


セルゲイは思わず両手を挙げ、武器を持っていないことや攻撃する気も無いということをアピールするが、上方で銃を構えている見張り兵には関係の無いこと。銃を構えたままセルゲイが立ち去るのを待つ。


「武器も無いし攻撃する気も無い。 ただここに住まわせて欲しい。」

「嘘をつくな、そんな許可は降りていない。」


テロが起こったことで、かなり厳しい警戒態勢のようだ。 そんなこと森の中で暮らしていたセルゲイは知るよしも無いが、ともかく手を上げて居れば撃たれないと確信したので冷静に攻撃意思は全く無い事を見せるため、見張り兵に背を向けてしっかりと見えるように両手を挙げた。


「俺はこの通り攻撃意思も無い。 ここに住むためには誰の許可が必要なんだ?」

「頭領の許可が降りないことには住まわすことも進入することも許されない。」


頭領という単語に反応し、今まさに探している人物と思い少し怒鳴り口調で兵士に向かって言った。


「その頭領は今何処にいる! ……すまん、頭領にお会いしたいのだが。」


兵士はセルゲイの急な怒鳴り声に思わず銃のトリガーをひきそうになったがセルゲイがすぐに謝ったことで思い留まり冷静に質問に対して応えていく。


「会うことは無理だ、会うにはヴィントブルームのマシロ女王に話を通して貰わな……。」

「おい……どうした?」


急に話が途切れた兵士に質問をするも返事が無く、おかしいと思い振り返るとさっきまで話していた兵士がぐったりをうつ伏せに倒れている。
セルゲイは「大丈夫か!?」と叫んでもまったく返事が無く、近寄って治療をしたいも高すぎるため上るのも不可能だ。すると倒れている男の手に引っかかっている銃が落ちて地面に当たると大きな銃声が当たり一面に響いた。

セルゲイはこのままでは自分が犯人だと思われてしまう、とすぐ考え逃げようと思ったが足が止まった。

(待てよ……これは頭領に会うチャンスではないか?)

考えを直し、攻撃意思を見せないために上着を捨て上半身は裸の状態で近くの岩壁に手をつけ人が来るのを待った。
待つ時間はほとんどかからなかった、すぐに複数の足音が聞こえ自分の周りを取り囲んでいるのがわかる。そして代表者的な人が近くにより何かの中から発しているような不自然な男の声が後ろから聞こえてきた。


「お前がやったのか?」

「違う……俺はアスワドに入ろうとしたらそいつに止められた。 そしてどうしたら頭領に会えるかを聞いていたら話の途中で急に……。」

「ラドさん! 嘘ですよ! ここにはこいつしか居ないんだから!」

「早く殺っちゃいましょう! ラドさん!」


周辺を取り囲んでる奴等はただの一般兵か? いや村人と考えるべき言動だな。するとあの見張り兵もアスワドの民か。このラドという奴も頭領と呼ばれてないことから頭領とはまた違う地位の奴だろう……、察するに頭領>幹部>民と言った具合か……? じゃぁこいつと話せば頭領と面会ができるかもしれんな……。


「落ち着け、こいつは武器を持っていない。 落ちている武器はユウキの武器だけだ……あいつは上方の見張りだ。ここからあそこに届くのは我々サイボーグかオトメだけ……この男の言っていることは本当だろう……とりあえずこいつを連れて行くぞ。」

「「「へい!」」」


兵士達がラドの説明に納得すると一斉に声を上げ、セルゲイの手を縄で縛ろうとしたとき、村中から爆発が起きた。
飛んでくる破片をラドと呼ばれた男が砕いていく。

自分の目を疑った……たしかにサイボーグと言ってはいたが全身が機械で表面が青く顔は最早原型をとどめては居なかった。それはもう完全なロボットにしか見えない姿だった。
そこへ岩場の隙間から怪我を負った少女が泣きながら飛び出してきた。ラドのことなど考えてる場合ではない! 思わず飛び出して少女に覆いかぶさると後ろから強烈な痛みが一瞬伝わると少女の上にゆっくり倒れこんだ。
ラドはすぐさま少女とセルゲイに近寄り二人を担ぐと


「一旦ここから離れる! 崩れるぞ。」


と兵士達に言い放つと砂漠へと飛び出していった。









-何でこうなってしまったんだろう。-
-前もそうだった-
-出会えて嬉しかった-
-だけど父親と娘という事実が気持ちを抑制していた。-
-やっと、やっと一人の女として男としてリセットされた赤の他人から始められたのに……-
-どうして……私の気持ちはどうして!?-
-何故好きと言ってくれないの!?-
-やっぱり私は娘なの……?-
-私には貴方だけなのに……だけなのに……-


ヴォオオオオ


突然の爆発音に我に返った。
ヴィントブルーム王国女王マシロの隠し刀のニナはマイスターマシロの名においてアスワド周辺のアルタイテロリストの捜査及び掃討の任務についた。
砂漠の上を考え事をしながら飛んでいるといつの間にやらアスワド近辺に来ていたらしい、するとアスワドの中から爆発の光と共に鼓膜が破れ辺りの砂がざわめくほどの爆発音を発した。


「!? テロ!? 急がないと……!」


スピードを上げたニナは自分の任務と正義に従いアスワドへ向かった。

アスワドにつくと、禍々しい煙に包まれた村に鳴き声が叫び声が反響していた。
ともかく片っ端から声の元へ向かい救助を行うが、切が無い。もしこの状態で次々と爆発が起こればアスワドは崩壊してしまう……。抱きかかえている少女を親の元へ送るとすぐさまアスワド頭領ミドリを探しに飛び回った。


「頭領をだせ、さもなくばこの子供の命は無いぞ。」

「止めるんだ、こんなことをしても何の意味も……。」

「意味など行動から自然についてくるものだ。」


一人のナイフを持った男が小さな少女の首筋に刃を立て人質にしていた。
セルゲイは少女を助けようとゆっくり一歩ずつ説得しながら近づこうとするも、男は無表情のまま一歩近づくごとに少女の首へ刃を近づける……首筋から一筋の赤い液体が流れ出てくる。セルゲイはその瞬間ぴたりと動作を止めると男のナイフも止まった。
少女は恐怖のあまり口を動かして必死にセルゲイに助けを求めても声が出ず、目からは涙が溢れている。


「どうした? 呼ばないのならもう終わりだ。」


ナイフの刃を突き立て少女の顔を程まで手を振り上げ勢いをつけて振り下げた……。


「?!」


男は自分の目を疑った。振り下ろして少女の首に刺したであろうナイフが地面に転がる……自分の手首と一緒に。
少女から手を離すと男は自分の無くなった、まだ暖かい手首を広いナイフをもぎ取った。


「わたしの村を荒らすと命は無いぞ」


背後から声がした。男は振り向き、すぐさまナイフで襲い掛かった……が切れたのは赤い髪の毛。
距離を取り声の主を見回すと赤い髪を後ろに束ね、黄金の瞳に妙な刀……まさしくこの女が頭領だ。男は確信し先ほど自分が捨てた足元に転がっている手首を拾うと女に投げつけた。
女は投げつけられた手首を鞘で叩き落すと目の前にナイフの刃が突きつけられた。


「お前がアスワドの頭領か?」

「そうだ。」

「アスワドの残党を住まわせて欲しい……もし拒否し」

「無理だ、早々に仲間を引き返らせろ。命だけは取らん、お前以外のな。」


男の台詞を最後まで聞かずに男の意見を潰すが如く答えた女は刀の刃を男の首筋に当てた。


「他の奴らは何処だ、最初に爆破した奴は? 一人か?」

「逃がしてくれた所で俺達は死ぬ、引き返せと言って引き返す仲間等居ない。」


男は女の刀の刃を強く握り自分の指を切り落とすといままで表情を変えなかったのがヘラヘラと笑いだした。
女は再度問い詰めることも無く首を切り落とそうとした瞬間、セルゲイが間に飛び込みラドから預かった銃で刃を防いだ。


「お前がセルゲイか、話はラドから聞いた。なんだ、やはり仲間なのか?」

「違う、だが目の前の人殺しを止めないわけにはいかない。」


セルゲイが女の行動を止めようと刀を奪おうとした瞬間、右肩に激痛が走った。女がやった物だと思い女の顔を見ようとすると女は後ろを向き辺りを見回している。


「ちっ……囲まれたのか……?」


仲間か……やはり居たのかしかし弾が一発、果たして一人なのか囲まれているのかすらわからない。非情にまずい状態になった……この男が密接しているにも関わらず撃ってくるということは腕に相当自信があるか、仲間の命はどうでもいいかだ……。さすがの頭領と呼ばれていたこの女も冷や汗を浮かべている。

パシュッ

2つ目の弾がセルゲイの頬のかすり男の右目へ当たった。


「ぐっ……。」


男は右目から血を流しながら倒れこんだ。女は倒れこんだ男の服を掴み無理矢理立たすと自分の盾にしながら走り出した。


「どこへいく!?」

「弾道が見えた、こっちにいっ……!?」


今度は反対方向から女の背中が打たれ倒れこむ。その瞬間今がチャンスといわんばかりに弾が一斉に飛んできた。女はすぐさま右目を失った男を自分の上に被せ盾にすると、次々と男の体へ弾が飛び込んできた。
男は所々から血を流し、もうすぐ死ぬだろう。

ほんの少しの間沈黙が続き、セルゲイは極度の緊張感に疲れ肩を下ろした瞬間、何かにぶつかりうつ伏せに倒れこんだ。
顔についた砂を払いながら上を見上げると見知った少女が逆手に持った2本の釵で飛んでくる弾を全て弾き落とした。


「ミドリさん、この方はヴィントブルーム王国マシロ女王の知人。よってここに住む権利が与えられています。」

「ニナか助かった。その男は身内か。」


セルゲイは少し前まで一緒に住んでいたニナが人を超えている運動能力、反射神経で弾を落としているのを見て意味が解らなかった。だがニナの格好を初めて見るはずなのにどこが見覚えがあった。


「ニナ……お前。」


セルゲイが立ち上がりニナの肩に手を乗せようとした瞬間、ニナが振り返りセルゲイの右頬を殴り倒した。


「2度と名前を呼ばないでといったはずよ。見ての通り私はヴィントブルームのマシロ女王のオトメ。貴方のせいで永遠にオトメのままだわ。」


ニナが信じられない目つきで俺を見下ろしている……まさかオトメだったとはな……? オトメ? そういえばあの写真の女性もオトメ……。

無数の弾を受けた男がニナの方を見ると表情を変え右目さへも瞼を開き這いずりながらもニナに近づいていった。


「お、おまえはアルタイの……アルタイのオトメ、ニナ・ウォン!!」


ニナは無言でセルゲイを視線から外し、這いずりながら近づいてくる男に近づき見下ろす。


「その目つき、まさしく漆黒の金剛石のニナ・ウォン。 くくく……裏切りのオトメが」


ミドリが男の左腕を切り落とした。


「気にするな、ニナ。」

「大丈夫よ。」

「はっ、親友を殺した漆黒のローブがマシロのオトメとはな、ハハハ。」


その瞬間ニナの表情が変わり男の左目に釵を突き刺す。
だが男は痛みにもだえるどころかヘラヘラと口の端をあげたまま続けた。


「その男の奪い合いの巻き添えで殺したんだろ? オトメの癖に汚いなぁ、名前はエル……。」

「うるさい!」


男の顔を踏みつけ今度は胸に釵を振り下ろした。


「ニナ!」

「なま……名前はエルスだっけか?、ゲホッゲホッ……ハハ、ハハハ。」


再度振り下ろそうとするもセルゲイが止める。


「ニナよすんだ。」

「うるさい……うるさいわ! 2度と名前を呼ばないでと言ったでしょ!」


男を蹴り飛ばすと一直線にセルゲイの方向へ飛び込んできた。釵の先がセルゲイの胸に刺さる瞬間、間に大きな帽子に黒いマントを纏、肩に黄色い小鳥を乗せた者が素手でニナの釵を握り止める。


「ニナ……刃を向ける相手が違いますよ。」

「うるさい……うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!」


ニナは飛び上がると2本の釵を左右に投げた。2本の釵は重量を全く無視し自由自在に動き回る。所々で人の声が聞こえた。


「これでテロ掃討は終わったわ、次は貴方よ!」


戻ってきた2本の釵が合わさると巨大な双釵となり、セルゲイへ突っ込んで行く。
ミユは受け切れずに吹き飛ぶと、セルゲイは立ち上がりニナを見つめる。


「そんな目で私を見るな!!!!」


あの時流しつくしたはずの涙が再び溢れてくる。


「泣かないでニナちゃん……。」

「!?」


白いワンピースにブルーのリボンの付いた麦わら帽子が風に飛ばされる。出てきたのは金色の髪と居るはずの無い人。
ブルーのハンカチで私の涙を拭ってくれている。

ニナはローブを解くとそのまま、涙を拭ってくれている女性に寄りかかる。


「ニナちゃん……想いは絶対に届くとは限らないんだよ?」

「そんなこと!」

「セルゲイさんを見て、あの人はレナ・セイヤーズさんのことを想ってると思う。」

「……やっと……やっと娘じゃなくなったと思ったのに。」

「ニナちゃん! 聞いて! 娘じゃなくなったね、それでもセルゲイさんはレナさんを選んだ、それだけでしょ! そういうのをフられたっていうの!」


ニナは下唇を噛締めてエルスの頬をビンタした。
エルスはたたかれてもずっとニナの目から視線をずらさなかった。


「我慢しなきゃいけないんだよニナちゃん、セルゲイさんだって我慢してるんだから!」

「うるさいうるさい!」

「……どうしても、どうしても我慢できないなら私にぶつけていいよ。」


エルスは腕を広げてニナを誘う。ニナは握り締めた拳を解くと涙を地面に落とした。


「なんで? どうしてエルスは……。」

「だって私も、ニナちゃんのこと好きだから。」


エルスはニナに抱きつくとエルスの目からも涙が流れていた。
エルスの涙を見てニナはエルスの顔を話すと見合わせて、ポケットから黄色いハンカチを取り出してエルスの涙を拭った。


「ニナちゃん……それ。」

「私達ずっと一緒よね……長い間忘れていたわ。」


ニナとエルスは抱き合いながらゆっくりと降りてきた。セルゲイがニナに駆け寄るとエルスは気を使ったのかニナから離れてミユの元へ。
ニナはセルゲイから顔そらして素通りしようとするが、セルゲイはしっかりとニナの腕をつかんで離さなかった。


「離して……。」

「ニナ、お前は本当に俺のことが好きだったのか?」

「?! 何を今更……そんなこともういいでしょ……。」


セルゲイは強い力でニナの腕を引っ張り引き寄せると、両肩をがっしりと掴み大声で言いたいところを抑えて小さな声で周囲に聞こえないように話した。


「よくないだろ……! あの頃……まだお前がガルデローベのコーラルだった時……。」


ニナは驚いた表情をした。記憶を失っているはずのセルゲイが昔のことを話したのだから当たり前だ。


「あの頃からお前は俺に好意を持っていた……だがそこまで執着するほどじゃなかった、あの事件からお前は俺に執着するようになった……。お前は近くにいた男が俺だけだったから……本当のことに気づかなかったんじゃないのか? 俺に抱かれたかったのも、本当はオトメを捨てたかったんじゃないのか?」

「……。」

「思い出せ、俺のことを好きだと言ってくれるのは嬉しいがそれは逃げだろ? 現実を見ろ、そして今を見ろ、あの娘を見るんだ。お前には俺だけじゃないだろ。」


目を逸らしているニナの顔を掴み強引にエルスの方へ向かす。


「エルス……。」

「自分の気持ちに嘘をつくから我慢できないんだ、もっと素直になれ。父親として最後のアドバイスだ。」

「……お父様。」


ニナはセルゲイに抱きしめられると自分も抱き返した。しっかりと家族の愛を感じて。
そしてニナはセルゲイにニッコリと子供の表情を見せると、エルスの方へ駆けていった。









ニナ、元気か? 父さんは元気だ……多分な。
アスワドの人たちにもやっと信頼されるようになり、仕事にも就けた。記憶はまだまだ戻っては居ないが『レナ』を知っている頭領やラド達から少しずつ新たに刻もうと思う。
シュバルツから取り戻した『レナ』の墓はヴィントブルーム王国にあるらしいが、実際に『レナ』を知っている物はここの頭領達しかいないだろう。
エルスが戻ってきた理由は未だ不明だが、この原因については現在マシロ女王が調べているらしい。ほかのスレイブを失った者達もどうやら生きているようだ。
それじゃ、また今度手紙を書くよ。 by Father

PS-モテル女はつらいぞ、気をつけるように。


「このPSってどういうこと?」

「知らないわよ……。」


郊外にある小鳥の囀りから虫達の囁きまで聞こえてくるとても静かな森の中に木造立てで外壁にはどこから生えてきたのか解らない蔓が巻きついて居るが、家の周辺は手入れが行き届いておりとても住みやすそうだ。
木でできたテーブルの上に手紙を広げ一人の少女が読んでいると後ろから顔を出して一緒に読みはじめる少女も一人。

そして木で出来た扉からノックが聞こえると返事もしないうちに中に入ってくる少女もまた一人。


「もう! どういうこと!? ニナちゃんとエルスちゃんが二人で住むなんて聞いてないよ!」


大きなカバンを両手に抱えてどう見てもここに住む気満々だ。


「アリカ……貴女マシロ様のオトメでしょ? マシロ様の傍に居ないと」

「別にいいじゃんいいじゃん、ミユさんに必死で頼んだらミユさんがマシロちゃんの傍についてくれるっていってくれたし。」

「アリカちゃん……それ大丈夫なの?」


バン! 大きな音を立てて扉が開くとそこにはちっこくて白い女王様とその後ろには真っ黒な付き人。


「アリカ! 聞いてないぞ! 何故ミユがそなたの代わりになっておるのじゃ!」

「えー、だってここに住みたいし……。」

「アリカをあまり困らせないでください。」


ミユはギロリとマシロを睨むとマシロは蛇に睨まれた蛙。身動き取れず黙ってしまった。


「ミユさん、あんまりマシロちゃんを睨んじゃだめだよ!」

「大丈夫ですよ、アリカ。」


ミユは先ほどの表情とは打って変わりにこやかな表情でアリカに微笑む。マシロはムッと嫌な表情をすると腕を組み自信満々といった表情をしながら無駄に大きな声でしゃべりだした。


「アリカはいつも寝相が悪いぞ!」


いきなりなんの脈絡も無く意味不明なことを言い出したマシロに対し、何かを感じ取ったミユはこれまたムッと嫌な表情をすると額に汗を一滴浮かべながら口の端を浮かべて


「アリカは小さな頃から甘いものが好きですよね。」


ミユとマシロはにらみ合うと一斉に「アリカは」「アリカは」という言葉言いまくる。
家の周辺の小鳥たちが一斉に飛び去り小さな虫までどこかに逃げていったような気がした。
アリカがミユとマシロの間に入り「どーどー」と馬を静めるようにミユとマシロを静める。
ミユとマシロはゼーゼーと息を荒くしながら睨みあったままだ。


「やっぱり駄目かぁ……ごめんねニナちゃんエルスちゃん。」

「えーっと……。」


言葉に悩むニナとエルスを後ろにし、アリカは二人を引きずりながらドアを開く。


「後でカバンお城に持ってきて!」


その言葉だけを残し走り去っていった。


「相変わらずだなぁ……アリカちゃん。」

「そうね。でも私たちは変わったわ。」


ニナは立ち上がりエルスを抱きしめるとキスをしてすぐさまカバンを持ってアリカの後を追っていった。
エルスは顔を真っ赤にしながらニナが戻ってくるまでずっと立っていた。




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